法律知識0の方にとっては行政書士試験に「民法」という科目があることすらわからないかもしれません。民法とは日本にある法律のことでその民法が行政書士に科目として出題されるのです。
このページでは民法という科目についてから、行政書士における民法の立ち位置や難易度に始まり、出題傾向から行政書士民法の勉強法を解説したいと思います。
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民法ってこんな法律
民法とは私たち私人間(しじんかん)社会の権利義務や契約によって生じる法律関係を定めた法律です。身近の事例で説明しますね。
日常に見る法律行為
あなたはタコ焼き屋さんへタコ焼きを買いに行きました。その店、タコ焼きとても美味しいんですね。
あなた「タコ焼き1つください。」①
店員「はい、タコ焼きひとつですね?こちらどうぞ!400円になります」②
あなた「400円ですね?はいこれ」③
店員「はい、400円いただきます。ありがとうございました~」④
これだけのやり取りですが、これが民法の法律行為です。民法学んでいる方はお分かりだと思いますが、このタコ焼きを買うという行為が、民法の13種類の典型契約の一つである「売買契約(民法555条)」に当たります。
「タコ焼き1個買う」を民法視点で解説
この売買契約のプロセスを核心部分だけ解説します。
①でタコ焼き売ってくれと店側に「申込み」をします。店側はその申込みに対する返答、承諾します②。①②のやりとり、この時点でタコ焼きの売買契約があなたとそのお店の間で締結されたことになります。契約とは「申込と承諾の合致」ですから。
この瞬間、あなたとタコ焼き屋との間に2つの債権債務が発生します。すなわち、
- タコ焼きの引き渡しについて:あなた債権者、店債務者
- 代金400円の引き渡しについて:店は債権者、あなた債務者
これを図にするとこう。
売買契約が締結されると債権者は当該債務者に対して債務の履行を要求する権利が発生し、当該債務者はその債務の債権者に対して履行する義務が発生します。
債権債務の仕組みとは
債務者にとって自分に向いている債権は心理的負担です。何とかしたいなあと思うでしょう。
この債務を消す方法は1つ、それは自分が債権者に対して債務を履行すること。相手の強みを消すには自分の弱みを消すことです、これが唯一の方法。借金完済すれば返済義務がなくなるのも同じ理屈です。
タコ焼きを債権者に引き渡せば債権者は「タコ焼きはよ」とは言えなくなります。自分の権利は債務者の履行により消されたからです。
残りは店の代金請求権。この権利を消すには400円払えばいい。それできれいさっぱりこの取引は一応終わり。
このように、400円のタコ焼きを買うという行為を、面倒くさい理屈並べるのが民法です。先ほども言った通り、ここでは核心部分しか述べていません。実際には他にも話すべきことがあるのですが、もっと複雑になるのでここでは割愛します。
民法という科目は難しい
脅すつもりではなく事実として、民法って難しい科目なんです。理由のひとつは上記のように複雑だから。他にも条文数が膨大です。1044条までありますからね。
民法という科目は法律資格試験ではマスト科目ですし、公務員試験でも出題されます。さらに、出題される試験では最重要ないし最重要科目の一つに数えられます。
「民法を制す者は〇〇を制す」
今も業界内で言われているかは知りませんが、少なくとも私が司法試験受験生時代は「民法を制す者は司法試験を制す」と言われていました。難しい科目だけど得意になれば司法試験合格しやすいという意味です。
民法ってこんな科目だから受験生内でも差が出やすいんです。苦手な人はとことん苦手だけど、得意な人は得意。つまり、合格者にとっては得点源ですが、苦手な人にとっては足を引っ張る科目。どっちが合格しやすいかは言わずもがなです。
行政書士の民法について
行政書士試験で出される民法とはどんな科目でしょうか。行政書士で出題される6科目のうちの一つ(憲法/民法/行政法/商法/基礎法学/一般知識)で、配点は全科目300点満点中76点、占有率は約25.3%。2番目の高さです。
憲法 | 28点(約9.3%) |
---|---|
民法 | 76点(約25.3%) |
行政法 | 112点(約37.3%) |
商法 | 20点(約6.7%) |
基礎法学 | 8点(約2.7%) |
一般知識 | 56点(約18.7%) |
問題数は全科目60問中、民法は11問(5肢択一式9問、記述式2問)法令では2番目、全科目では3番目。
憲法 | 6問(5肢択一式5問、多肢選択式1問) |
---|---|
民法 | 11問(5肢択一式2問、記述式1問) |
行政法 | 22問(5肢択一式19問、多肢選択式2問、記述式1問) |
商法 | 5問(5肢択一式5問) |
基礎法学 | 2問(5肢択一式2問) |
一般知識 | 14問(5肢択一式14問) |
行政書士民法は最難&最重要
難易度高い民法ですが、行政書士試験においてはどうなんでしょうか。行政書士も他試験と同様民法は難しいです。科目として最難科目には違いないでしょう。行政書士における民法は、最難かつ最重要科目と見積もります。
記述式で出題されるから最難科目
元々の高難易度に加えて、行政書士においては記述式問題3問中2問を占めています。記述式問題とは、問いに対しての解答を選択するのではなく、文字制限の枠の中で自分の記述によって解答する問題のこと。
用意された答えを選ぶのではなく、自分でクリエイトする必要があるので、行政書士では最も難易度高い出題形式と言われています。3問出ますが、そのうち2問が民法。しかも、記述式は1問20点の高配点です。
合格したいなら絶対逃げ出すことはできません。
配点比率が高いから最重要科目
行政書士で最重要科目と言われているのが、民法と行政法です。問題数配点比率は行政法がトップで民法は2番目。それぞれの立ち位置は上の表をご覧ください。。
1位の行政法は112点の占有率約37.3%と差はありますが、問題の難易度は総じて民法ほど高いものではなく、科目全体を相対的に見て最重要科目2トップと考えるべきでしょう。
いずれにしましても、民法は行政書士受験にあたって得意にならなければならない科目であると言えます。
行政書士民法の出題範囲
行政書士民法は全条文1044条から出題範囲となります。が、どこからもまんべんなく出題されるというものでもなく、そこはメリハリはあります。民法は大きく分けて、
- 総則
- 物権法
- 債権法
- 相続・親族法
と分類できます。物権法と債権法まとめて財産法とする場合もありますが、条文的には一応分離されているので上記とします。
行政書士において最も出題される分野は債権法だと思います。債権法とはまさに人との契約における債権債務の取り決めを定めた法。契約総論・売買契約・賃貸借契約・連帯債権債務・不法行為あたりが特に頻出。
もちろん、総則や物権法、親族相続法から出ないというわけではありません。まんべんなく出題されますが、特に債権法が多いかなということです。
行政書士民法の出題傾向
行政書士の民法は5肢択一式と記述式、そのすべてが事例問題です。文章でシチュエーションが説明され、それを設問の条件に合わせて民法的正解を導く。
つまり、行政書士民法の問題を解くということは、現実(事例)を理想(条文・論点)とすり合わせる作業といえます。
条文や論点の知識があるのを前提として、事例はどの条文・論点の場面なのか?これは5肢択一も記述式も同じです。選ぶか書くかの違いだけ。
出題傾向から見る行政書士民法の勉強法
では、行政書士民法の勉強法について話を進めたいと思います。が、その前に民法という科目の特殊性について触れなければならない点が2つありますのでそちらからお話させていただきます。
民法の勉強で気を付ける点2選
行政書士のというより、民法という科目固有の注意点。
- 民法勉強は数回回さないと理解できない(と思う)
- 民法は論理展開よりも結論ありき
民法勉強は数回回さないとわからない
民法はふわっとした総論から勉強を始めるので1回目勉強しただけではモヤモヤするはずですが、それはそれでOK、気にせず先に進むと良いでしょう。
民法の条文は「総則」から始まります。総則とは全体に通じている決まりです。つまり、その後に続く「物権法」「債権法」「親族相続法」に適用する抽象的な決まり事を始めに持って行っているわけです。
民法は総則から学んでいくのが一般的ですが、結果、抽象的感が拭えないふわふわした印象を抱く人が多くなるでしょう。でもそれで問題なしというスタンスなのです。
こういうのをパンデクテン法学(式)と言って、昔の欧州で用いられた法典著述方式で、抽象から具体へと体系的な示しとされてきました。
少なくとも1回全体を回さないとピンとこない人も多いと思います。が、民法とはそういうものと割り切って進んでしまって問題なしです。
民法は論理展開よりも結論ありき
論点の話ですが、民法も憲法と同じように判例が頻繁に出てきますが、論理展開はあまり気にせず結論としてどうなるかを重要視しましょう。
憲法の論点は結論よりも論理の展開が重要視されますし、問題もそこを問うてきます。参照:行政書士の憲法は難しい?学習ポイントや効果的な勉強方法は?
しかし、民法は論理展開よりも結論重視、問題もそこを問うてきます。というのも、民法は憲法や刑法のような公法ではなく私法なので、「こうあるべき」という結論を立てて、そこに持っていくように法解釈して論理展開します。
良い意味で柔軟、悪い言い方すれが適当。私法ですからそれでもいいのかな。試験対策的には、そういう結論が出た理由だけに留めて細かい流れは気にしないことです。
行政書士民法勉強法を出題傾向から学ぶ
行政書士民法は事例問題が出るとお話しました。その事例問題対策の勉強法は基本的にはシンプルです。以下3点。
- 要件・効果をひたすらがっちり固める
- 出題形式に沿った対策
- 事例問題対策とは
「要件・効果」を固める
民法のベーシックな勉強とはひたすら「要件・効果」を固めること。「要件・効果」とは「こうなるとこうなる」といった取り決め。「18歳になると成人として扱われる」は要件効果と言えますね。
その要件・効果はどこにある?まずは条文です。民法の条文は要件・効果の形で記載されています。同時にその条文にまつわる論点です。
論点とは
論点とは議論の的となる議題です。条文に書かれている文言自体は論点とはなる余地はありません。論点となるのは条文では賄いきれない法解釈についてです。法学においては学説と判例がありますが、試験においては判例です。
例えば、96条3項では詐欺取消前に出現した善意の第三者の取り扱いについて規定されてますが、取消後に現れた場合には規定されていません。つまり、条文では賄いきれない領域。ここを白黒つけるのが論点です。
ちなみに、この論点は「復帰的物権変動論」という民法でも重要かつ難易度高い論点としてあります。参照:「復帰的物権変動とは?取消(解除)後の第三者の保護をわかりやすく解説」
論点は条文のようにシンプルには書かれていませんが、これも「要件・効果」でまとめることができます。差し当たっては重要な所だけで良いので、この「要件・効果」をまとめておくことが大事です。
「要件・効果」を条文を使って解説
「要件・効果」、具体的に条文を用いて解説します。民法93条「心裡留保」。
意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても(①)、そのためにその効力を妨げられない(②)。ただし、相手方がその意思表示が表意者の真意でないことを知り、又は知ることができたとき(①´)は、その意思表示は、無効とする(②´)。
どういった条文かはそれぞれご自身で確認いただきたいのですが、①~②は私が振った番号です。①が要件です。すなわち、「こういう条件の場合には~」という部分。そして②が効果。「①の場合は②になるよ」。これが要件・効果です。
これが理想(「要件・効果」)と現実(事例)の理想の部分です。
「原則」があれば「例外」もある
民法を勉強していくと「原則」と「例外」ってのがたくさん出てきます。原則があれば例外あり、という。
心裡留保で言えば、①②は心裡留保における原則の「要件・効果」で、①´②´が例外の「要件・効果」。①´は①の原則のイレギュラーであることを確認してください。そうなると「効果」も変わります。
過去問検討は出題傾向に沿った対策になる
「要件・効果」の勉強自体は、5肢択一式と記述式分ける必要はないです。出題傾向で述べている通り、問われることは同じだからです。選ぶか書くかの違いだけ。ただ、それぞれ解答の訓練は必要ですので、それは対策しましょう。
対策のマストは過去問ですね。行政書士って「過去問主義」と言われるぐらい過去問に沿った問題が良く出題されます。過去問は問題の傾向を肌で体験することができるし問題のレベルも把握できます。ですから過去問は過去10年分ぐらいは何回も回してしっかり身に付ける必要があります。
過去問を適切に扱うことの効果
取得した「要件・効果」の知識を、過去問使って整えます。過去問を適切に扱うことによって、
- 知識を整理しながら復習
- 出題形式に肌に触れる
- 出題レベルを知る
- さらに必要な知識の肉付け
が可能です。過去問はただ解くだけのアイテムではありません。練習アイテムではなく教材です。
事例問題対策とは記述式問題対策
事例問題対策は=記述式問題対策と考えると良いと思います。その理由をこれからお話します。
事例問題解答法とは現実(事例)と理想(要件・効果)のすり合わせ作業に他なりません。つまり、事例を見てどの場面かの見極めの問題です。これができれば、解答できたも同然です。
記述式過去問を見てみよう
行政書士民法の事例問題として、過去問を見てみましょう。一般財団法人行政書士試験センターから転用させていただきました。
これは平成26年度行政書士試験問題45の記述式問題です。ちょっと古めだし法改正前の問題ですのでその点ご留意ください。ご覧のように事例問題になっています。
この問題を使ってキーワードの拾い方のシミュレーションを他のページで示しますが、記述式対策は5肢択一式対策を兼ねるものです。事例問題に慣れるには記述式から慣れる、効率的な民法対策だと思います。
問題文から「要件」を示すキーワードを拾う訓練を
事例問題に慣れるポイントは問題文の読み方にあると私は考えます。事例問題を解く上で必要な問題文の読み方、それは「要件を示すキーワードを探して拾う」こと。
解答するのは「効果」です。ですから問題文には「効果」は書かれていません。探すのは「効果」とセットになる「要件」それを示すキーワードです。事例から「要件・効果」の「要件」を示しているキーワードを拾う問題文の読み方をしましょう。
国語力は意外と大事
国語力、文章読解力は非常に大事です。問題文の事例はそれなりに複雑です。どんなことが起こっているのかを秒で理解する必要があります。のんきに読んでいる時間はありません。素早く確実に自体を把握するためには文章読解力は必須でしょう。
これは問題演習にたくさん当たればある程度は解決することができると思います。コツとしては、頭の中で事例を図式化すること。差テキストでよくありますよね、債権者A債務者B善意の第三者Cみたいな図です。余白があれば図書いても良いと思います。
行政書士民法のおすすめ市販テキストについて
まず、行政書士民法のテキストってどんなのが良いのでしょうか。大事な2点だけ挙げます。
- 「要件・効果」がシンプルに記述されているもの
- 表や図がふんだんに使用されていて知識が一元化できるもの
ようは、行政書士民法の出題傾向に沿ったテキスト、「要件・効果」を学ぶのに適したテキストです。初心者用に作られていることも大事で、表や図を多用した、シンプルに頭に入ってきやすいものを選ぶと良いと思います。
おすすめの市販テキストはある?
行政書士民法のおすすめ市販テキストというのは特にありません、ってか知りません。なぜならば、市販の行政書士テキストってほとんどが全科目オールインワン仕様になっており、行政書士民法のテキストってないと思います。
行政書士専用でなければありますが、編集が専用でない分知識の取捨選択に苦労するでしょう。ハッキリって無駄ですし、効率的に勉強はできません。
おすすめオールインワンテキスト一つ挙げてみました。
2024年版 出る順行政書士 合格基本書
LECが出している市販行政書士用対策参考書です。市販行政書士参考書は1冊でどうこうはいかないかなというのが私の意見ですが、そこ踏まえても出る順が一番いいかなと思います。
例によって分厚いですがサイズが手ごろ(A5)ですし、見やすいですね。携帯性重視ならkindle版もあるし、とりあえず勉強始めてみようかというのならベストと思います。
最も効率的な勉強法は通信講座
行政書士は司法試験なんかと違って独学でも合格は可能だと思います。しかし、独学だとどうしても時間が掛かる。1年では無理だと思いますし、早くても2年、普通に3年ぐらいは必要かなと考えます。
「そんな時間無いよ」と考えるのなら、通信講座を利用することをおすすめします。通信講座なら社会人でも全国どこに住んでいようとも関係なく、自分の好きな時間に好きなだけ勉強できます。現在の行政書士講座はほぼすべてが通信講座、通学講座は完全に斜陽なのです。
料金も10万円台が中心ですが10万円以下の講座も存在します。通信講座で10万円払って1年で合格するか、独学で数万円の教材で3年かかって合格するか、どっちが良いかは個人差だと思いますが、どうするにしても検討はしていいかなと思います。
まとめ
行政書士の民法とかは関係なく、民法という科目は難しい科目なのです。でも民法から逃げていたら合格はまず無理です。だったら、しっかり対策立てて得意にするよう努力すべきでしょう。
幸い、行政書士の民法は難易度高いですが、出題傾向はシンプルです。行政書士民法対策=事例問題対策≒記述式問題対策ですから。そして、これら対策を最短距離でできるのは通信講座を利用すること。特に初心者は絶対そうするべきです。
2024年度試験対策通信講座がリリースされたばかりですが、法律資格試験経験者の管理人が厳選した通信講座7校を総合的に比較してランク付けもしてみました